はじめに:OJTだけでは幹部育成が難しい背景

製造業では、現場でのノウハウ伝承や実務を通じたスキル習得を目的とするOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が主流となっています。しかし、事業の多角化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が求められる現在、従来のOJTでは幹部に必要な経営視点や戦略的思考が身につきにくいという課題があります。

特に、新規事業の立ち上げや海外市場への進出といった挑戦においては、現場の知識だけでなく、市場調査や財務管理、リーダーシップなどのスキルも不可欠です。本記事では、OJTの限界と幹部育成の課題を整理し、組織改革やDXの活用による実践的な解決策を探ります。


第1章:製造業が抱える幹部育成の問題と、OJTの限界

1-1. 製造業の新規事業が難しい理由と幹部不足

製造業は、長年培ってきた技術力や品質管理を強みとしていますが、市場の成熟化やグローバル競争の激化により、新たな成長戦略として新規事業開発が求められています。しかし、多くの企業が幹部候補の不足という課題に直面しています。

  • 既存事業の負担が大きい:中堅・ベテラン社員は日々の生産管理に追われ、新規事業にリソースを割く余裕がない。
  • 視野の狭さ:現場中心の業務が長年続いているため、市場調査やDX活用に関する知識が不足している。
  • 幹部候補の流出:キャリアパスが明確でないため、育成が進まないうちに有望な人材が退職する。

このような課題が、新規事業の成功を阻害する要因となっています。

1-2. OJTの特徴と限界

OJTは、実務を通じたスキル習得の手法として有効ですが、経営視点の養成には向いていません。

  • 経営戦略やマーケティングの知識が得にくい:OJTは業務遂行に重点を置くため、経営視点の教育が後回しになりがち。
  • 教える側の知識も限定的:指導者もOJTで育っているため、新しいノウハウの提供が難しい。
  • 体系的な教育が不足:経験則に頼ることが多く、計画的な育成がなされていない。

この結果、「幹部として必要なスキルが不足したまま管理職に昇進する」状況が発生してしまいます。

1-3. 統計から見る幹部育成の課題

ある調査では、日本の製造業の約45%が「幹部候補の育成に課題がある」と回答しています。また、「OJTによる育成の限界を感じている」という企業は30%に達しています。これらのデータは、幹部育成の新たなアプローチが求められていることを示唆しています。


第2章:新規事業推進に欠かせない組織改革とDX、具体的な幹部育成策

2-1. 新規事業と幹部育成は一体で考えるべき

新規事業を推進する際、適切な幹部育成が行われていないと以下のような問題が生じます。

  • プロジェクトリーダーの不足:新規事業を推進できる人材が社内にいない。
  • チームビルディングの困難:縦割りの組織構造が障害となり、部門間の連携が難しい。
  • DX導入の遅れ:デジタル技術を活用するリーダーがいないため、DXが進まない。

そのため、新規事業の成功には、幹部育成と組織改革を並行して進める必要があります。

2-2. DX導入がもたらす可能性

DXの導入により、幹部育成にも大きなメリットが生まれます。

  • データドリブンな意思決定:市場データや生産データを分析し、戦略的な判断が可能になる。
  • オンライン販路の拡大:ECやデジタルマーケティングを活用し、新たな顧客層を開拓できる。
  • 業務の効率化:AIやIoTを活用することで、業務プロセスの最適化が進む。

DXは単なる技術導入ではなく、企業の成長戦略の一環として活用すべきものです。

2-3. 幹部育成策としての研修・外部提携

OJTだけでは補えない経営スキルを学ぶために、以下の施策が有効です。

  • 社外セミナーの活用:マーケティングや財務、DXの基礎を学ぶ。
  • 内部研修+外部講師:自社課題に合わせた研修を実施し、専門家を招く。
  • プロジェクトベース学習:新規事業を研修の一環として位置づけ、実務を通じた学習を行う。

幹部候補が実際のビジネス環境で学ぶことで、より実践的なスキルを習得できます。

2-4. 補助金活用で人材育成コストを抑える

人材育成にはコストがかかるため、補助金の活用も重要です。

  • ものづくり補助金:DX導入や研修プログラムの資金として活用可能。
  • 産業振興助成金:地域ごとの補助金を活用し、幹部育成費用を削減。

これにより、負担を抑えつつ、計画的な幹部育成が可能となります。


まとめ

OJTは製造現場の実践力を養うのに有効ですが、新規事業や幹部育成には限界があります。経営戦略やDXの知識を体系的に学ぶためには、社外研修やコンサルタントの活用が不可欠です。

今後の製造業の成長には、

  • 幹部育成と新規事業を一体化した組織改革
  • DXの活用による意思決定の高度化
  • 外部リソースを活用した研修・教育

が不可欠となります。企業の将来を見据え、今こそ戦略的な幹部育成に取り組むべき時ではないでしょうか。